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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「カルメン故郷に帰る」 寂しさをまぎらわす時に〔15〕

カルメン故郷に帰る」 邦画初国産カラー作品
 


【公開年】1951年  【制作国】日本国  【時間】86分  【監督】木下恵介
【音楽】木下忠司
【脚本】木下恵介
【出演】高峰秀子(おきん/リリイ・カルメン)  小林トシ子(マヤ朱実)  坂本武(青山正一)  磯野秋雄(青山一郎)  佐野周二(田口春雄)  井川邦子(田口光子)  城澤勇夫(田口清)  小沢栄(丸野十造)  三井弘次(岡信平)  笠智衆(校長先生)  佐田啓二(小川先生)  山路義人(村の青年)  
             
【成分】笑える 楽しい ゴージャス セクシー かわいい コミカル ストリップ コメディ 農村 50年代
            
【特徴】国産カラーフィルムによる初カラー邦画であると同時に、戦後復興が一通り達成し来たる高度経済成長の前夜を象徴するコメディでもある。
 終戦後まもない長野県の農村が舞台。緑の農村に突然赤系のド派手な美女2人がやってくる。高度経済成長前夜に相応しく、2人のヒロインは暗い時代から明るい時代への移り変わりを象徴するかのように爽やかな新風のようにやってきて去っていく。シリアスさは殆ど無く、全編に渡って夏の明るさと天真爛漫な笑いに満ちている。デコちゃんこと高峰秀子氏の天然ボケキャラは巧い。
 最初のカラー作品らしく、カラーフィルムの特性や当時の性能を十分考慮した映像づくりがなされている。男性目線になってしまうが、浅間山麓の草原で2人のヒロインが下着姿で踊りの練習をする場面は萌え。
 
【効能】デコちゃんの演技に寂しさや悩みが吹き飛ぶかもしれない。
 
【副作用】一部フェミニストには男性中心社会の弊害を描写した悲劇・もしくは社会批判映画に見えるかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
デコちゃんの天然ボケぶり演技が巧い!
 
 デコちゃん高峰秀子氏)の代表作として省く事のできない名作がこれだ。この映画は国産カラーフィルムを使った初の邦画(余談1)として映画史に記憶されているが、評価すべき点はそれだけではない。

 デコちゃんのイメージは今でも少年の頃に観た「二十四の瞳」の知的で爽やかな「おなご先生」こと大石先生役だ。ところが、この作品では清楚な大石先生とはうって変わってケバい化粧に原色のド派手な服を着た人気ストリッパー・リリィー・カルメン嬢に扮している。しかも教養のかけらも無さそうな天真爛漫・自由奔放のおバカキャラだ。デコちゃんの藝域の広さに感動する。

 記念すべき初カラー邦画なのに、何故かドタバタコメディーといった感じなのが意表を突く。素人考えでは重厚な文藝大作とか壮大なスペクタクル巨編にしそうなものなのだが、これは上映時間90分弱の喜劇だ。当時のカラーフィルムが高価だったため、経済的な制約から小品にしたのだろうか? 戦後復興期はシリアスよりもコメディーを欲していたのか?

 映像としてはカラーフイルムの特性を使い切っている。緑豊かな浅間山周辺の農村。そこへ赤や黄色の原色華やかな服をヒラヒラさせて2人の若い女性がやってくる。真赤な口紅にマニキュア、青いアイシャドー。この原色赤を魅せるにはカラーでなくてはならない。それに背景が緑だと補色効果で赤がより目立つ。農村の人々は焦茶やダークグレーの背広や和服、別に白黒で撮ってもイメージは変わらない。(余談2)白黒で映しても差し支えない村人の前に原色の2人が登場する、というのは「オズの魔法使」で現実の白黒世界から夢のカラー世界に行くような演出にも似て印象的かつ判り易い。

 物語の内容は、好意的に捉えると、都会から明るく自由な未来を象徴するヒロイン2人が、未だ戦争の傷痕が残る故郷にやってきて新しい風を起こし問題を解決して爽やかに去って行く。しかもヒロインは偉そうな職業ではなく世間では日陰の商売とされているストリッパーであるのが好印象だった。保守の象徴である父親をはじめ村人は戸惑いと拒絶反応を示す一方で、校長は彼女たちを蔑視することなく「藝術」と評価(誤解なのだが)し理解に努めようとする様も面白い。
 歴史的には、戦後復興から高度経済成長へと向かい日本全国の都会化と生活様式の欧米化が急激に始まる転換期にあたる。映像的にも内容的にもそれを反映した明るい作品だ。(余談3)

(余談1)「カルメン・・」は日本最初のカラー映画と誤解されているが、実は戦前に外国産フィルムを使っての映画が制作されたらしい。したがって、あくまでも国産カラー初の映画である。

 カラーは当時「総天然色」と称された。60年代までは使われていた単語だが、私が小学生だった70年代半ばには完全にカラーフイルムが主流となり、それとともに殆ど死語になった。
 アメリカでは「風と共に去りぬ」「オズの魔法使」が超有名で、1930年代からカラー映画が制作されている。当然のことながら、当時のカラーフィルムは不安定で低感度で高価だった。

 写真をやっている人ならピンとくるだろうが、「カルメン・・」の殆どが野外ロケだ。それも太陽光の強そうな夏の晴天下。それだけカラーフイルムの感度が低く信頼性が無かったのか、失敗に備えて白黒でも撮っていたそうだ。DVDの特典映像で紹介されている。

 作中のデコちゃんは涼しそうにノースリーブの派手な衣装をヒラヒラさせているが、実際はかなり暑かったと思う。ロケ裏では汗をフキフキ・メイクし直しに違いない。

(余談2)今となっては、日本人の生活が急激に欧米化する前の原風景をカラーで記録している点で貴重かもしれない。豊かで広々とした農村に村人たちのスローライフ。奇異なものに戸惑いながらも否定せず許容に努めようとする村の知識人の生真面目さ。

 校庭で村のイベントが行なわれるなど、小学校を中心に村のコミュニティが形成され校長が村の名士でいられた時代は、今や過去の話となりつつある。私は若い頃にチャリンコで日本一周をやり、しばしば小学校の校庭でテントを張らしてもらったのだが、作中の校長のような人に随分世話になったものだ。いま同じやり方で旅をすると不審者として警察に拘束されるだろう。

 この作中では和服がまだ普段着の地位にある。現代の和服は冠婚葬祭の改まった時や大相撲や歌舞伎・落語など特殊な職業の服装となってしまっているのが寂しい。
 デコちゃん小林トシ子氏の体型を見ていると、現代のモデルたちは痩せすぎだと感じる。

(余談3)知人のフェミニストは全く正反対の解釈をしていた。ポルノは男性に搾取されている女性の象徴なので、彼女にとってストリッパーはおぞましい職業なのだ。
 私は男女の権利経済格差が問題であってポルノ自体が問題なのではないと考えている。原因と結果の取り違えだ。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
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