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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「光州5・18」 絶望から脱出しよう〔28〕 

光州5・18」 
光州事件を商業映画としては
初めて正面から捉えた問題作

 


【原題】華麗한 休暇
【公開年】2007年  【制作国】大韓民国  【時間】121分  【監督】金志勳
【脚本】ナ・ヒョン
【言語】韓国語
【出演】安聖基(パク・フンス)  金相慶(カン・ミヌ)  李瑶媛(パク・シネ)  李準基(カン・ジヌ)  宋在鎬(神父)  
             
【成分】泣ける 悲しい スペクタクル パニック 勇敢 絶望的 切ない かっこいい 内戦 1980年 韓国
            
【特徴】1980年、民主化を叫ぶ光州市民と戒厳軍との衝突が勃発、一時内戦状態になった光州事件を正面から捉えて映画化。名優安聖基氏が市民義勇軍を指揮するリーダーに扮する。
 前半は韓流恋愛ドラマ風に爽やかでほのぼのとしたテンポで進むが、市民側から見れば突如国軍が光州市制圧にやってくる。道庁政府の仲介と撤収宣言も無視され、国軍は市民に対して水平斉射を行い多数の市民が殺された。弟を殺された主人公は、恋人を守るため恋人の父でもある上司とともに市街戦に参加して抵抗する。
 平凡な市民の視点で事件を描写した感動巨編である。
 
【効能】重い結末に涙が止まらなくなる。韓国人がなぜ日本人以上に反権力志向が強いのか、なぜ反米色が強いのかが理解できる。
 
【副作用】以前から事件を正面から捉え支援してきた人には、脚色臭エンタメ臭が不快感になる。
 内乱は現代日本人の感性には違和感がある。特に嫌韓派には奇麗事の羅列に見えて不快感。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
この作品を支持する。

 2008年、就任したばかりの李明博大統領が訪米して当時のブッシュ大統領と会談、アメリカ産牛肉輸入再開を決めた。韓国市民は激怒し、数万規模のデモに膨れ上がって大統領退陣要求と反米デモへと発展する。
 経済手腕を買われ大多数の国民の歓呼に迎えられたはずの李大統領の立場は一変、慌て輸入再開を延期し閣僚全員が辞意を表明しても収まりそうにない。

 日本ではせいぜい極少数の市民運動家が異議を唱える程度、多くは大手牛丼屋に牛丼が復活した事を喜ぶだけ。自民党が下野するどころか首相が退陣に追いやられる事もない。年金や医療保険のいい加減な運用など、韓国では騒乱状態になっても不思議ではない大事件なのに、多くの日本人は愚痴を言うに留まる。

 なぜ、韓国市民はこれ程までに反米なのか、多くの日本人はピンとこないだろう。韓国映画「トンマッコル」「グエルム」などに登場するアメリカ人は尊大で傲慢だ。
 そのカギはこの映画にある。予備知識として、韓国は日本以上に制約のある「安保条約」を結ばされ、国軍は米軍の指揮下・管理下にあることを知れば納得いくだろう。つまり米政府の支持がなければ全斗煥将軍のクーデターは成功しなかったし、米軍の黙認がなければ光州市民への攻撃は無いのだ。(余談1)

 物語の前半は、ほのぼのとした青春ホームドラマ調で展開する。かつての日本にも普通に見られた広々とした水田。その中に浮かぶ大都市光州市がある。
 主人公は金相慶氏(キム・サンギョン)扮する若いタクシー運転手。親を早くになくし、主人公は親に代わってデキの良い弟(李準基氏・イ=ジュンギ)を育てる。弟は兄の期待に応え、名門ソウル大学校へ進学することを夢見て、兄には所帯を持って身をかためてほしいと願う。生活は豊かではないが秀才の弟がいるせいか、ハードカバーの難しそうな本が沢山ある。
 ヒロインは李瑶媛氏(イ・ヨウォン)扮する若い看護婦、父親(安聖基氏・アン・ソンギ)は主人公の雇用主で予備役の大佐、暮らし向きは中流の上といったところか。如何にも育ちの良さそうなお嬢さんといった感じだ。(余談2)

 やがて、軍が乱入してくる。全斗煥将軍の政権奪取に反対する光州の学生や労働者のデモ隊を鎮圧するためなのだが、いつの間にか暴力の矛先は光州市民全員(余談3)が対象となってしまう。知事の軍撤収声明に喜ぶのも束の間、軍隊は横隊を組んで市民に向け一斉水平射撃。デモ隊にいた弟は殺され、兄は戦うことを誓い職場の社長でヒロインの父親が組織する市民軍に参加する。純情可憐なヒロインも武器を取る。道庁に立て篭もる市民軍に対し国軍は数にまかせて総攻撃。(余談4)

 主人公たちをノンポリ(余談5)の普通の庶民に設定し、光州市での内戦を舞台にした恋愛劇に留めたのは正解だった。政治的な学生を主人公にしては万人の共感は得られないだろう。下手に社会派にしてしまうと、政治的プロパガンタと見なされる。
 邦画と違って軍隊の描写や群衆の描写がリアルだ。パッと見は日本とよく似た風景だが、画面に満ちている緊張感は邦画とはまるで違う。日本人の監督や俳優たちにこの緊張感は出せない。この光州事件の光景を再現しただけで韓国人には意味が解るし、ヨーロッパ人にも判るだろう。

 個人的には、恋愛劇にしてほしくはなかったのだが・・。それから、声質が尾崎豊氏に似た工藤慎太郎氏の主題歌は私の趣味ではない。余計に映画を甘くして少し不快だ。

(余談1)光州事件時、私は中学三年生だった。連日、新聞の一面と三面に大きく取り上げられていた。民主化運動の学生たちが機動隊から奪ったヘルメットを被り武装車両に乗って街をパトロールしている写真を見て、「すごい、まるで独立国だ」と無邪気に思ったものだ。

(余談2)この頃の韓国は今より漢字の使用率が高い。街の標識にも一部漢字があるし、日本と同じく中高生は学生服を着ている。

 李瑶媛氏の長い黒髪と太目の眉が素敵だ。
 安聖基氏は韓国を代表する名優だ。80年代後半の映画「神様こんにちは」で身障者の青年役を好演したのが最も印象に残っている。

(余談3)軍事独裁で名高い朴正煕氏や全斗煥、一応選挙で選ばれた軍人出身の盧泰愚氏はみな南東部の慶尚道出身。朴氏のライバルで民主化の雄だった金大中氏は西隣の全羅道出身。光州も全羅地方の都市である。全羅と慶尚の地域対立は険悪で、日本の関西・関東の比ではない。

(余談4)もし光州事件が無かったら、ヒロインの父親は娘と主人公との仲を認めなかったような気がする。

(余談5)ノン・ポリティカルの略。特定の政治勢力に属さない市民。あるいは政治運動をやったことのない市民。
 


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光州の五月 宋基淑
失われた記憶を求めて―狂気の時代を考える 文富軾
 

 
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タクシー運転手の青年ミヌ(キム・サンギョン)は両親を早くに亡くし、高校生の弟ジヌ(イ・ジョンギ)を 親代わりとなって生活していた。そんなミヌは、ジヌと同じ教会に通う看護師のシネ(イ・ヨウォン)に 秘かな想いを寄せていた。告白することもできずにいたミヌだっ...
1980年5月18日、韓国・光州市。この町で25000余名の戒厳軍が民主化を要求する学生、市民らと衝突した“光州事件”…タクシー運転手の青年ミヌは早くに両親を失い、たった一人の弟ジヌと暮らしていた。父親代わりでもあるミヌは、弟に格別の愛情を寄せていた。そして、ミヌ
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