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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「ワルキューレ」 不安と恐怖を楽しむ時に〔11〕 

ワルキューレ」 
トムの気合の入った演技が見られる

 

ワルキューレ プレミアム・エディション [DVD]
ワルキューレ [Blu-ray]

【原題】VALKYRIE
【公開年】2008年  【制作国】亜米利加・独逸  
【時間】120分  
【監督】ブライアン・シンガー
【音楽】ジョン・オットマン
【脚本】クリストファー・マッカリー ネイサン・アレクサンダー
【言語】イングランド語 一部ドイツ語
【出演】トム・クルーズフォン・シュタウフェンベルク大佐)  ケネス・ブラナー(ヘニング・フォン・トレスコウ少将)  ビル・ナイ(オルブリヒト将軍)  トム・ウィルキンソン(フロム将軍)  カリス・ファン・ハウテン(ニーナ・フォン・シュタウフェンベルク)  トーマス・クレッチマン(オットー・エルンスト・レーマー少佐)  テレンス・スタンプ(ルートヴィヒ・ベック)  エディ・イザード(エーリッヒ・フェルギーベル将軍)  ジェイミー・パーカー(ヴェルナー・フォン・ヘフテン中尉)  クリスチャン・ベルケル(メルツ・フォン・クヴィルンハイム大佐)  
             
【成分】悲しい ゴージャス パニック 勇敢 知的 絶望的 切ない スリラー サスペンス 1944年 ドイツ
            
【特徴】アメリカのエンタメ映画のブライアン・シンガー監督と、評判の良くない新興宗教の信者であるトム・クルーズ氏が問題になった。反ナチの英雄にして殉教者、名門貴族で熱心なカトリックでもあるフォン・シュタウフェンベルク大佐をトム・クルーズ氏が演じる事が大ブーイング、ドイツ側の協力も消極的で時には撮影を断る事もあり、制作は何度か試練を経験した。
 そのため、時代考証はきわめて正確で、トム・クルーズ氏も気合の入った演技を見せた。ただ、ドイツ側に気を遣った事でブライアン・シンガーらしさや、トム・クルーズらしさが発揮できなかった点も否めない。
 
【効能】ゴージャスな雰囲気が楽しめる。緊迫感が夏の夜を涼しくしてくれる。トム・クルーズ氏らの頑張りが画面に出ていて勇気付けられる。
 
【副作用】歴史的事実である結末は超有名なのでサスペンスとしての効果は激減。トム・クルーズの演技が抑えすぎて面白みに欠ける。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
サスペンスの努力賞なのだが、私は不満。
 
フォン・シュタウフェンベルク
実際のフォン・シュタウフェンベルク伯。トム・クルーズ氏より精悍な顔つきだ。
中尉の肩章を付けていることから、20代後半くらいの顔と思われる。


 歴史上名高いヒトラー暗殺未遂事件を扱った映画、主人公は反ヒトラーのリーダーで若き大佐フォン・シュタウフェンベルク伯爵。計画は失敗し、大佐はろくな裁判も開かれず反逆者として拘束後すみやかに銃殺された。(余談1)
 戦後、彼は英雄となり、舞台の予備軍司令部があったベルリンの一区画はシュタウフェンベルク街と改名されている。幸い遺族は生き延び、幼かった息子は父親と同じ軍人の道を進みドイツ連邦軍大将になる。

 ドイツではトム・クルーズ氏(字数節約のため、以下トムとする)らの映画化企画に冷ややかだった。ハリウッドのエンタメ映画監督と一部で評判が良くないカルト教の信者であるトムに、名誉あるドイツの英雄にして由緒ある家柄のキリスト教徒フォン・シュタウフェンベルク伯が辱められる、と警戒するのは当然の心理だろう。だからトム側も気合はかなりのものと察せられる。

 結論をいうと、よく頑張ったのではないか。私は全編ドイツ語で勝負してほしかったが、「ラストサムライ」で披露したトムの日本語は短い台詞にも関わらず聞きとり難かった。本作も冒頭だけドイツ語で、すぐ英語に切り替わった。英語台詞でドイツらしさを演じるというのは、やはりつらい。
 考証に致命的な誤りは無かった。よくやるミスに長髪のドイツ兵があるが、トムをはじめ出演者は後髪を短く刈上げ、もみあげも短く剃っていた。アメリカ人臭さはかなり抜けている。トムの顔は張りがあるので30代に見えなくもないし、所作は貴族らしく上品で慌てず軍人らしい姿勢の正しさとキビキビとした動きがあった。歩き方をかなり練習したかもしれない。
 出演者もイギリス・オランダ・ドイツの俳優で固めた。ドイツ人スタッフも多く参加している。制作陣はドイツに相当気を遣っているのが見てとれた。(余談2)

 物語は意外にも細かいところまで殆ど史実通りに進行する。前半は駆け足で展開、ヒトラーが悪であるのは周知の史実であり大前提だから、展開上ナチの残虐性描写を思い切って割愛したのは正しい判断だ。中盤の暗殺計画始動からベルリン制圧を企てて失敗するまでを緊迫感豊かに細かく丁寧に描写したのは嬉しい。
 ただ、どうしても払拭できない不満がある。せっかく史実通りに話を進めながら、アフリカ前線帰りの大佐をケネス・ブラナー氏扮するトレスコウ少将がスカウトしたかのように描いていた。実際は以前より叔父の誘いで反ヒトラーグループに参加していたので、誘われる場面は無しで良かった。この場面を入れたおかげで、大佐が安易に反ヒトラーグループに入ったかのように見えてしまう。葛藤描写は家族との別れの場面だけで十分だ。
 
 ともあれ、考証はかなり正確でクーデターの緊迫感が良かった。サスペンスとして努力賞なので映画館で観たほうが良いだろう。
 
(余談1)1918年ドイツ革命までは、プロイセンやバイエルンをはじめ多くの王国や公国が集まってドイツ帝国を構成していた。その中の1つドイツ南部にあったヴュルテンベルク王国の名門貴族が大佐の出自である。
 30代半ばで大佐に昇進したのも、有能な軍人でありアフリカ戦線で名誉の重傷を負ったからだが、伯爵という身分とドイツ参謀本部の前身であるプロイセン参謀本部創設者の子孫という貴種も少なからず関係している。
 家柄というのは、大佐がなぜ反ヒトラーになったのかを考える上で重要である。奇しくも大佐を逮捕するレーマ少佐に扮したトーマス・クレッチマン氏は、若い頃にドイツ映画「スターリングラード」で貴族のお坊ちゃん少尉の役をやった。育ちが良すぎるゆえに将校としての正義と名誉を信じ、粗暴野卑なナチ将校に反感をもつ様が描写されている。

(余談2)トーマス・クレッチマン氏は噂によると大佐の役をやるつもりだったようだが、結局レーマ少佐になった。容姿は大佐よりもレーマ少佐に近い。史実通り首元に柏葉付騎士鉄十字章(同じ鉄十字でもランクがあり間違えやすい)をつけている。事件後、レーマは急ピッチで昇進し最年少32歳で将軍になり、戦後も生き延び極右活動家として天寿を全うする。
 それにしても、クレッチマン氏やベルケル氏ドイツ人俳優がドイツ国防軍の軍服を着て英語を話すなんて、やはり滑稽だ。

 作中、大佐たち国防軍将校は「ヒトラー最期の12日間」ほど頻繁にナチ式敬礼をしていない。これは考証のミスではなく、大戦前期は国防軍にナチ式敬礼を徹底した強制は実施されなかった。大佐たち暗殺未遂事件以降に国防軍もナチ式敬礼を強制される。
 ブルーノ・ガンツ氏のヒトラーを観てしまうと、今回のヒトラーは迫力が無く貧相に見える。予告編ではよく似ていたように見えたが。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆ 佳作


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MIHOシネマ 「ワルキューレ」のネタバレあらすじ結末と感想。
 
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わが教え子、ヒトラー デラックス版 [DVD] ダニー・レヴィ
ワーグナー:管弦楽曲集 フルトヴェングラー指揮
ワルキューレの騎行~ワーグナー:管弦楽名曲集 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 
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ヒトラー暗殺計画と抵抗運動 (講談社選書メチエ) 山下公子
ワルキューレ ヒトラー暗殺の二日間 スティ・ダレヤー
 

 
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