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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「黒い雨」 社会問題を考えたい時に〔15〕

黒い雨
邦画でないと描写できない反核映画

 


【英題】BLACK RAIN
【公開年】1989年  【制作国】日本国  【時間】123分  【監督】今村昌平
【原作】井伏鱒二
【音楽】武満徹
【脚本】今村昌平 石堂淑朗
【言語】日本語
【出演】田中好子(高丸矢須子)  北村和夫(閑間重松)  市原悦子(閑間シゲ子)  原ひさ子(閑間キン)  沢たまき(池本屋のおばはん)  三木のり平(好太郎)  小沢昭一(庄吉)  小林昭二(片山)  河原さぶ(養殖業者・金丸)  石丸謙二郎(青乃)  大滝秀治(藤田医師)  白川和子(白旗の婆さん)  深水三章(能島)  殿山泰司(老僧)  常田富士男(ヤケドの四十男/老遍路)  三谷昇(郵便局長)
 
【成分】悲しい パニック 不気味 恐怖 絶望的 切ない 第二次大戦 反核 1945年~1950年代 白黒
  
【特徴】井伏鱒二黒い雨」の映画化。8月になると必ずどこかの映画館や市民会館で上映される不朽の名作である。
 全編白黒映像(カットされたラスト場面はカラー)で静かに忍び寄る原爆症の恐ろしさが迫る。原爆投下直後の光景をリアルな美術で再現、白黒映像はまるで当時の記録フィルムのようだ。
 アイドルユニット「キャンディーズ」出身の田中好子氏は原爆症に蝕まれるヒロインを好演し、演技派女優の仲間入りを果たす。
 
【効能】直接身体を蝕む放射能と心理的に追い詰める社会的偏見の恐怖を学べる。
 
【副作用】全体に暗い描写のため気分が憂鬱になる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
アメリカ人には描けない原爆の悲劇

 海外版では「BLACK RAIN」という英題だが、奇しくも同じ年に公開された松田優作氏主演のハリウッド製同タイトルのヤクザ映画とはまったく関係ない。(余談1)

 原作は井伏鱒二氏の小説「黒い雨」、反戦反核平和教育に熱心な地域なら推薦図書になっていたり、あるいは夏休みの課題図書として無理やり読まされた方も少なくないかもしれない。私は高校時代に読まされた。国語教師が熱心な反戦教育家で、教科書を無視して一週間ほど現代国語の授業は教室ではなく図書室で「黒い雨」の読書時間にされたのだ。

 内容のかなりの部分は原爆投下直後の様子を淡々と叔父視点の光景が延々続く。ルポルタージュに近い内容だった。小学生の頃に中沢啓治氏が漫画という映像で生々しく原爆投下直後の広島を描く「はだしのゲン」を読んでいたので、それに比べればむしろ文章の方が入り込め易い印象を持った。またゲンを何度も襲う不幸と迫害に比べれば、「黒い雨」の主人公たちはまだ恵まれていて、読中ストレスは少なかった。

 映画のほうは、やはり被爆死体などのリアルな残酷描写は避けては通れない。ただ、敢えて白黒映画にしたおかげで、臭いが漂いそうなカラーのグロテクスさとは違って少しオブラートに包まれているような感がある。CGの無い当時だから、最高技術の造型やメイクで被爆者や死体を描写したのだろう。たぶん、カラーでもリアルだろうと思うが、白黒映画は当時の記録映像的でカラー映像とは違った強い説得力がある。

 原爆症で苦しむ事になるヒロインは、揖保そーめんのCMでお馴染の田中好子氏が務め、原爆症で苦しむ表情など素晴らしい演技をした。元「キャンディーズ」のアイドル歌手が、この作品によって名実ともにプロの演技派女優になったと思う。演技力もさることながら、田中好子氏の落ち着いた風貌と豊かな黒髪が白黒映画によくマッチングしており、後の悲劇をより印象深いものにしている。適切なキャスティングだ。(余談2)

 さてこの映画、意外にも映画化はこの1作だけのようだ。同じ戦争の悲劇を描写した沖縄の「ヒメユリ」は何度も映画化されているというのに。特攻隊をテーマした映画やドラマにいたっては、これでもかと言わんばかりに沢山制作されているというのに、素朴な疑問として引っかかる。なぜ、唯一の被爆国であるのに、「黒い雨」はなかなか映画化されなかったのか? なぜリメイクされなかったのか?

(余談1)私の中では主演はマイケル・ダグラス氏ではない。断固として松田優作氏である。

(余談2)DVD版の中にはカットされたラストのカラー映像が収録されている。現代(といっても昭和40年代だと思う。ヒロインはあまり歳をとっていない)のヒロインがお遍路さんをやっている綺麗な風景なのだが、やはり私はカットして正解だったと思っている。白黒で押してきた説得力がカラーで台無しになっただろう。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
【受賞】カンヌ国際映画祭(フランス映画高等技術委員会賞)(1989年) 第13回日本アカデミー賞最優秀作品賞(1989年)
  
晴雨堂関連作品案内
黒い雨にうたれて [DVD] 白土武
 
晴雨堂関連書籍案内
黒い雨 (新潮文庫) 井伏鱒二
黒い雨にうたれて 中沢啓治
はだしのゲン自伝 中沢啓治

  
晴雨堂関連処方箋案内
社会問題を考えたい時に 「第五福竜丸」
 

 
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