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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「風が吹くとき」 家族と一緒に考えよう〔15〕 

風が吹くとき」 
世界的絵本作家が描く反戦反核映画

 


【原題】WHEN THE WIND BLOWS
【公開年】1986年  【制作国】英吉利  【時間】85分  【監督】ジミー・T・ムラカミ
【原作】レイモンド・ブリッグス
【音楽】ロジャー・ウォーターズ
【脚本】レイモンド・ブリッグス
【言語】イングランド語
【出演】ペギー・アシュクロフト(ヒルダ) ジョン・ミルズ(ジム)
日本語版吹替 森繁久彌(ジム)  加藤治子(ヒルダ) 
  
【成分】泣ける 悲しい パニック 絶望的 切ない 反戦反核 アニメ
 
【特徴】世界的絵本作家が描く反戦反核。キュートでほのぼのとしたキャラクターにノンビリとした日常描写から始まる。日本人の感性にも合う可愛らしい絵柄と核兵器の恐ろしさの対比、そして国家を信頼して救援を待ち続ける主人公たちを見捨てる国家権力、「はだしのゲン」と同じく反権力姿勢が貫かれている。
 主題歌をデビッド・ボウイ氏が担当しプロモーションビデオが世界中で評判だったにも関わらず、日本では劇場公開を避け市民会館やミニシアターでの上映にとどまった問題作でもある。
 
【効能】絵柄が可愛らしいので家族団欒にて鑑賞すれば、反戦反核の意識を共有できる。
 
【副作用】子供にトラウマを与える。子供に不用意な反政府観念を植え付ける。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
反核童話の秀作。

 80年代に青春をおくった方なら、デビッド・ボウイ氏が主題歌を担当していたことで憶えているだろう。当時は「MTV」などの音楽番組で「風が吹くとき」をダイジェストにしたプロモーションビデオが何度も紹介されていたし、書店では店頭に原作が並んでいた。日本での吹き替えは森繁久彌氏と加藤治子氏が担当していたことでも話題になった。

 最近、デジタルリマスター版になって公開されていることを知った。残念ながら全国の映画館で公開というわけではないが、映画館で鑑賞できる数少ない機会に恵まれたなら、是非ご覧になられたら良いだろう。一見の価値はある。

 私にとっては反核作品とは、あまりにも中沢啓治氏の「はだしのゲン」が強烈なインパクトとなって残っているため、他の反核作品はどうしても「甘い」「青い」「若い」と映ってしまう。なにしろ「ゲン」では被爆直後の生々しい様子や、死人の街と化した広島の光景が克明に描写されているだけではない。被爆によって主人公ゲン少年を襲う数々の不幸や迫害、それらは原作者の実体験がベースになっているわけだが、これが鑑賞者に安易な同情や綺麗言の理想諭を抱かすことを禁じている。
 よく感想で使われる「戦争はいけないと思いました」等の言葉だけで片付ける「世間の良心」に対して、「ほう、俺はこれだけ訴えているのに、それで終いか? なめとんのか?」と迫っているような気がする。

 この作品も「はだしのゲン」に比べれば、かなり甘く綺麗に描いている。観賞後は思い出の片隅に追いやられるかもしれない。井伏鱒二氏の「黒い雨」でも感じた、原作者の被爆体験の有無が「ゲン」との決定的な差だ。しかしけっして駄作ではなく、絵本としてかなりよくできた構成である。
 また、「風が吹くとき」の原作者レイモンド・ブリッグス氏には井伏鱒二氏に無いものがあった。「ゲン」の中沢氏ほどではないが、明確な国家権力への不信感である。(余談1)これが作品に児童文学・児童アニメらしからぬシビアな緊張感を与えている。

 主人公は年金生活をおくる老夫妻だ。物語はこの二人しか登場しないと言っても良い。ブリッグス氏の感性は日本漫画に近いのか、丸みのあるキャラクターは日本人が観ても可愛らしい。そしてキャラの性格も実直そのもの。捻くれている私とは対照的な存在だ。
 冒頭、この2人の楽天的で幸せな日常生活が描写される。世間では不穏な情勢が伝えられ核戦争の危機が叫ばれているが、特に不安がるわけでもなく、まるで私たちが台風情報を見るような感覚に近いだろう。(余談2)2人はとりとめのない話をしながら、政府発行のパンフレットに従い、非常食を集めたり、簡単な物置にしか見えない代物のシェルターを作って有事に備える。核戦争の危機とデタラメばかり伝える悪質な政府、政府を素直に信じている楽天的でノンビリとした2人のコントラストが切なくイライラする。

 鑑賞者の多くは、この可愛らしい愛すべき老夫婦の平凡な日常を見ながら、後に訪れる不幸を考え切なくなるだろうと思う。老夫婦が今後も幸せな日常を続けることを願う者もいるかもしれない。しかし核ミサイルが炸裂する。そのとき、老夫婦がまだ若く結婚する前の情景が早送りで描写される。まるで、二人の人生がそこでついに終わったかのように。
 幸か不幸か2人は無傷で生き延びた。外に出ると廃墟が広がっている事に驚くが、いつもの調子でノンビリと政府の救援を待つ。が、実はこれから本当の地獄が2人を襲う。ノンビリ屋の丸々としたキュートな老夫妻が次第に弱っていく様を観客は見る事になる。見事な演出だ。

 反戦反核の児童向け作品として秀作だ。この作品に物足りなさを感じている方は、核の恐ろしさを広く世界に知らしめる入門編と捉え価値を認めてはどうか。

(余談1)「はだしのゲン」では反天皇制や在日コリアン問題まで言及している。

(余談2)私が住んでいる所は、まったく水害がない。台風が真上を通過しても、いつもより風が強く吹いた程度だった。床下浸水もなければ停電すら無い。
 私の姉が生まれて間もない頃に第二室戸台風が襲った。私たち一家は尼崎の下町に住んでいたので被害は甚大、恐怖だったようだ。
 

  
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☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
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 レンタルDVDで『風が吹くとき』を観ました。 核戦争の恐怖を描いた、ほのぼのとした絵による イギリスのアニメーション映画で、1986年に公開されています。 なお日本語版監督は大島渚、吹き替えは森繁久彌と加藤治子です。 年老いたジムとヒルダの夫婦は、子供も独...
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