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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「コマンダンテ」 絶望から脱出しよう〔29〕

コマンダンテ」 
カストロへの貴重なロングインタビュー

 


【原題】COMANDANTE
【公開年】2003年  【制作国】亜米利加 西班牙  【時間】100分  
【監督】オリヴァー・ストーン
【音楽】アルベルト・イグレシアス ポール・ケリー
【言語】スペイン語 イングランド語
【出演】フィデル・カストロ(本人)  オリヴァー・ストーン(本人) 
  
【成分】楽しい ロマンチック 知的 かっこいい キューバ革命 ドキュメント 
  
【特徴】社会派オリバー・ストーン監督が「アレキサンダー」を発表する前年にキューバ最高指導者カストロに突撃密着取材をした記録映画を発表。このときのカストロは既に健康に不安を抱えているものの、まだ精力的で元気である。それをアメリカの映画監督が密着取材を行うという貴重な映像だ。アメリカでは未公開。
 
【効能】カストロの若々しさとバイタリティーに、悩みや絶望感が吹き飛ぶ。
 
【副作用】社会主義に対して過度に幻想を持つ恐れがある。
 売春を容認するカストロ発言に激怒するかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
名監督の本領を発揮した映画。

 この作品は歴史超大作「アレキサンダー」を公開した前年に制作された。だからつい比較してしまう。ストーン監督は派手な歴史物は不得手で、社会の暗部を照らす作品やドキュメントなどのジャーナリズム的作品に本領を発揮する監督であることを強く感じる。(余談1)

 この作品でストーン監督はインタビュアーとしても出演している。80年代の「プラトーン」の時は鋭さのある恐い感じの表情に感じたが、この作品では太って口髭生やしてスーパーマリオのようだ。ラテン系のキューバにマッチしている。
 「主役」であるカストロ氏は、禿げてはいないもののスッカリ頭髪が白くなり、身体が小さくなったような印象をうける。若い頃の堂々とした体格に黒い髭を記録映像で見慣れている私にとっては、ずいぶん歳をとってしまわれ寂しく思った。(余談2)

 通常のドキュメントやルポルタージュなどは取材や調査に労苦をかけるものなのだが、これは一見すると単純なドキュメント・インタビューに見える。しかし説得力は抜群だ。これはカストロ氏とストーン監督の共同作業で創られた映画といっても良い。
 撮影に際してカストロ氏は「いつでも撮影を止められる」という条件をつけた。だが結局は撮影を中断されることは無く、検閲も無かったそうである。この頃のカストロ氏は現役の「コマンダンテ」なので非常に多忙であったはずだが、鬱陶しいストーン監督によく付き合ったものだ。
 
 それから観客にはイライラするかもしれない女性通訳(余談3)の存在、実はドキュメントにとって重要な意味がある。TBSの「世界うるるん紀行」のように通訳の存在は極力画面から消して字幕にすればスマートに鑑賞できる。しかし字幕では台詞を正確に描写できないのである。よく字幕と吹替え両方を観て台詞が違うことに気がつく映画ファンは多いと思う。
 字幕は出演者の生の声を楽しめるが、長台詞を翻訳した長文を字幕にしたら画面が字で埋まるか極めて小さな字になるので、字数が決められている。だから大雑把な意味しか伝えられないのだが、それを悪用して関西テレビ「あるある大事典」のように実際に話した事とはまるで違う意味の字幕を挿入することもできるのである。(吹替えも悪用できるが)
 優秀な通訳の存在は、インタビューに小細工はしない意思表示ともとれる。世界にはスペイン語と英語の両方を話せる人は少なくないからだ。

 カストロ氏の口の巧さ、話し好きは有名である。スピーチをしたらいつ終わるか判らない。この作品でもそうした彼の性格がよく出ている。とにかく頭の回転が速く、自分にとって不利な事柄は巧くあしらい失言が無い。ストーン監督はいい歳をした大物映画人なのに、まるで駆け出しの青年記者のように見える時がある。
 カストロ氏の考え方や趣味には、親近感をおぼえる事が多々ある。合理的でありたいとする姿勢や、栄光に興味を持たない姿勢は興味深い。私も若い頃に「小惑星が激突して人類が滅んだら、地位や名誉や戦争に何の意味があるんや」と嘯いたことがあったが、似たようなことをカストロ氏が言うとは思わなかった。徒手空拳の若者では単なる負け惜しみだが、カストロ氏のように既に歴史に名を残す事が明確でありながら伝記も作らず銅像や肖像画も禁じ、キューバだけでなく世界中に信奉者がいる権力者の老人が言うと説得力がある。

 アメリカ資本主義の破綻が指摘されている今、再びキューバ式社会主義が見直されつつある。エコロジーと医療福祉を柱にした社会主義である。 

(余談1)「アレキサンダー」はかなり精細に史実を調べ上げている。部下への同性愛や反対派の粛清やラストの毒殺など、今までのアレキサンダー物に比べると実像に迫られているのではないかと思うほどだが、スーパーヒーローの歴史物はそれだけでは駄目だ。

(余談2)健康悪化のため、現在は権力を実弟ラウルへ譲り、文筆活動で「革命」を支えているそうだ。もはや以前のような溌剌とした身体には戻れないだろう。この「コマンダンテ」は元気な頃のカストロ氏を映した貴重な映像である。しかも公の演説ではなく、プライベートに近い寛いだ感じの会話もあるので必見だろう。

 言うまでも無いが「コマンダンテ」はカストロ氏の愛称だ。現役の革命家でコマンダンテといえばカストロ氏を指す。カストロ氏以外で同様の意味でコマンダンテと呼ぶことが多い人物は盟友であったチェ・ゲバラ氏だろう。
 コマンダンテはスペイン語で「司令官」「指揮官」「陸軍少佐」を意味する。英語でいうコマンダーに相当する。

(余談3)カストロ氏とは極めて親しい間柄との噂がある。言われてみれば、通訳は以心伝心というか、息が合っている?

【追記】2016.11.26 フィデル・カストロは黄泉の国へ旅立たれた。晩年はケガと病でボロボロだったが、権力を実弟ラウルに譲ってからも言論の世界で「革命家」であり続けようとした。
 


晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
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