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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

家族と一緒に感動しよう 「ロッキー」

ロッキー」 ボクシング映画の金字塔
 
  

【原題】ROCKY
【公開年】1976年  【制作国】米  【時間】119分  【監督】ジョン・G・アヴィルドセン
【音楽】ビル・コンティ
【脚本】シルヴェスター・スタローン
【出演】シルヴェスター・スタローンロッキー・バルボア)  タリア・シャイア(エイドリアン)  バート・ヤング(ポーリー)  カール・ウェザース(アポロ・クリード)  バージェス・メレディス(ミッキー)  ジョー・スピネル(ガッゾ)  セイヤー・デヴィッド(-)  ジミー・ガンビナ(-)  ビル・ボールドウィン(-)  アルド・シルヴァーニ(-)  ジョージ・メモリー(-)
   
【成分】泣ける 勇敢 かっこいい イタリア系移民 貧困 社会的少数者 ボクシング
     
【特徴】シルヴェスター・スタローン氏渾身の感動作。長い下積みからアメリカンドリームに乗ってスターダムに上がる主人公と「原作者スタローン」は見事にダブる、だからこそ作品の隅々に渡って説得力がある。
 アカデミー授賞式には、礼服の調達が間に合わず普段着で出席したスタローン氏が初々しい。
 
【効能】エネルギーをもらえる。生命力が甦る。絶望から光を見る。
 
【副作用】ボクシングの試合はややリアリティに欠け興ざめ。八百長試合に見えて感動できない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。  
アメリカン・ニューシネマの終焉。

 ボクシング映画はこれまで大量に制作されてきた。ざっと思い浮かぶだけでも、ロバート・デニーロ氏「レイジング・ブル」、ウィル=スミス氏「アリ」、ミッキー・ローク氏「ホームボーイ」、デンゼル=ワシントン氏「ザ・ハリケーン」、古くはカーク・ダグラス氏「チャンピオン」など。しかし公開当時は一等星だったはずのこれら映画をかき消す太陽のような輝きを持つ名作がスタローン氏の「ロッキー」である。

 ポルノ映画(余談1)の出演やボディーガードしながら日々食いつないできた下積み時代のスタローン氏が大ボクサーであるモハメッド・アリ氏に善戦する無名の白人ボクサーの試合を観て感動し僅か3日間で脚本を書き上げた事は、あまりにも有名な話で多くの人々に知られている。スタローン氏に映画の神様が憑いた一瞬である。

 さて、初期のスタローン映画ともいえるこの作品、随所にはニューシネマ的要素がある。主人公ロッキーはイタリア系の貧しい青年、といっても20代ではなくもう若くない。ボクシングをやっているが目が出ずヤクザ系の金貸しで借金取りのバイトをやっている。学校にあまり行ってなかったのか読み書きが不得手だ。実際のスタローン氏は読み書きはできるが、他は似た様な境遇である。

 本作では、イタリア系の貧しい白人とボクシングの業界では一定の影響力を築いたアフリカ系の確執もキーワードになっている。作中では民族差別的な台詞も敢えて出してアメリカ社会の問題もさりげなく描写している。(余談2)後年のスタローン映画は安っぽいアメリカンヒーローになってしまったが、このロッキーは多分に社会派であり、厳しい生活苦に耐える多くの私たち庶民、または事故や災害でも起これば明日は我が身の小市民が感動せざるを得ない魅力を強烈に持っていた。

 この「ロッキー」はアメリカ映画の新しい流れの先駆けでもある。ハリウッドは伝統的に強いヒーローが登場する西部劇やゴージャスなローマ時代劇を創っていた。映画は大衆に夢を与えるだけのモノだった。それが公民権運動やベトナム戦争などの大きな社会変化を反映して、社会の底辺を這う様に生きる若者が権力によって叩き潰される物語が創られるようになった。映画は夢を与えるだけのモノではなく、逆に夢に浮かれ体制の甘言に乗せられて利用される私たち市民に現実の冷水を魅せる媒体となった。これがニューシネマだと私は解釈している。

 だが70年代も後半に差し掛かったこの時代、国家権力や国家を信じていた市民はベトナムでの失敗と経済的危機と原発事故で、「いちご白書」の学生達や反体制市民は権力に捻じ伏せられ叩きのめされ、熱狂の60年代から目覚めてみれば身体は疲れきり、精神的にも疲弊して自信を失う。
 様々な負の遺産が嫌でも目につくので、ニューシネマのスタイルは辟易して、リアリティーや共感が得られる等身大のヒーローが明るい可能性を見せる映画を欲していた。「ロッキー」は普遍的テーマであると同時にタイムリーだった。だから時代が変わっても名作であり続ける。

 「ロッキー」が制作される前、デビット・キャラダイン氏の「デス・レース」でスタローン氏は悪役として出演したが、この時のスタローン氏はダイコンだった。スターになる俳優には見えなかった。「ロッキー」は本当に映画の神様がスタローン氏に憑いたとしか思えない。

(余談1)スタローン氏が大スターになってから広くビデオソフトが出回るようになった。学生時代に観た事があるが、全体にパッとしない作品だった。最後は大勢入り乱れてスワッピングの大団円だったような記憶がある。性的興奮は殆ど湧き起こらず「いつまでこのシーンが続くんや?」と思いながら観ていた。日本のポルノやAVの方が遥かに質が良い。
 この頃のスタローン氏はいろんな意味で若い。体格は逆三角形の筋肉質だがスター時代よりは貧相。苦しい生活の中でも映画俳優を目指して体型を維持している苦労のあとが判る。

(余談2)ロッキーとアポロの試合の時、大興奮の観客を観たアナウンサーが「全米からイタリア人がきたんじゃないか」と発言。隣の人が慌てて「それ問題発言じゃないですか」と指摘する。
 以前、WBCスーパーフライ級チャンピオン徳山昌守選手(洪昌守 ホン・チャンス)がタイトルを奪取した試合を観た時、洪昌守選手の勝利を伝えるアナウンサーの発言を聞いたとき、ロッキーを思い浮かべた。

(余談1)悪役というより狂言回しか。レースに出る他のライバルも影が薄い。それよりも熱烈な「デス・レース」ファンでファンキーな実況中継のアナウンサーと、真面目な顔でトンデモ発言をする解説者が印象に残っている。
 
(余談2)冒頭で西暦2000年の未来都市が描写されるのだが、なんと鉛筆でいい加減に描いた都市のイラストなのだ。観てから20年以上経つから記憶違いかもしれないが。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
【受賞】アカデミー賞(作品賞)(1977年) ゴールデン・グローブ(作品賞(ドラマ))(1976年) LA批評家協会賞(作品賞)(1976年) NY批評家協会賞(助演女優賞)(1976年) 全米映画歴史研究家協会賞 最優秀主演男優賞  ダビッド・ディ・ドナテロ賞 外国映画部門最優秀男優演技賞
 
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