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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「魔人ドラキュラ」 不安と恐怖を楽しむ時に〔15〕

魔人ドラキュラ」 ドラキュラ映画の開祖。
 

 
【原題】DRACULA
【公開年】1931年  【制作国】亜米利加  【時間】74分  
【監督】トッド・ブラウニング
【原作】ブラム・ストーカー
【音楽】
【脚本】ギャレット・フォート
【言語】イングランド語
【出演】ベラ・ルゴシドラキュラ伯爵)  ヘレン・チャンドラー(ミナ)  デヴィッド・マナーズ(ジョン・ハーカー)  エドワード・ヴァン・スローン(ヴァン・ヘルシング教授)  ドワイト・フライ(レンフィールド弁護士)
    
【成分】ゴージャス 不気味 恐怖 吸血鬼 ホラー 20世紀初頭 白黒
     
【特徴】吸血鬼モノの元祖というだけでなく、ホラー映画の原典ともいうべき名作。現在、様々なバリエーションのドラキュラ映画が制作されているが、全てはここから始まった。主演のベラ・ルゴシ氏はこの作品で世界的有名人になる。
 白黒画像とベラ・ルゴシのキャラが見事にマッチングしている。
  
【効能】ゴージャスな恐怖が楽しめる。
 
【副作用】表現が地味でスローテンポなため恐怖を感じられない。退屈する。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
ベラ・ルゴシのアタリ過ぎた役 
 
 ドラキュラ映画の開祖である事は疑い無いが、事実上ホラー映画全体の原点であると評価しても良いだろう。
 原作はドラキュラ映画ファンにとっては著名なブラム・ストーカー氏。監督はトッド・ブラウニング氏、映画の父と讃えられているグリフィス監督の後輩(日本的にいえば「門下生」と称しても良いか)である。主演はドラキュラ伯爵のはまり役としてあまりにも有名なハンガリー出身のベラ・ルゴシ氏である。(余談1)

 この作品、たぶん制作当時は意識されていなかったと思うが、フィルムの劣化によって見難いところが多々あるために、それがかえって暗黒の吸血鬼を一層迫力あるモノにしている。現代のドラキュラ映画は明るくてポップな映像に見えてしまうので、それだけでもドラキュラのイメージが半減する。
 冒頭で、ある不動産関係の若い営業マン(原作は弁理士なので、映画も営業マンではなく弁理士かもしれない。昔に観たきりなので記憶違いの可能性がある)がドラキュラ伯爵の居城へ訪問する。フィルム劣化のせいか当時のフィルムの感度が低いせいなのか陰影が色濃く出ていて、まるで背広姿の若者が闇の中へと誘い出されている感がして恐い。

 ドラキュラ役といえば、今ではクリストファー・リー氏を連想する人が多いだろうが、ベラ・ルゴシ氏の存在感はリーを圧倒している。具体的にいえば、リーは血走った目で美女を誘い首筋に噛み付くまで演じなければ迫力がでないが、ルゴシは微笑みながら登場するだけで怖いのである。もっと踏み込んでいえば、リーは普通の名優だが、ルゴシなら御神体にして新興宗教をつくる事ができる、それだけ魅力があるのだ。

 当時の道徳的制約から、胸に杭を打ち付けるところのアップや、ドラキュラが絶叫して血飛沫を撒き散らすところのアップも出てこない。いたって地味なズームアウトの遠目の描写であるため、具体的にドラキュラを串刺しにして倒した場面は確認できない。たぶんドラキュラを退治しただろうという程度の描写である。
 それがかえって「ヘルシング教授は果たして本当にドラキュラを倒したのだろうか」という疑問の余地が発生し、教授が仲間らに「後から行くよ」と言ってエンドになるところが、逆に不気味な余韻を残す。ひょっとしたら、教授もドラキュラになってヒロインたちに襲いかかるのでは・・と。

 当時は単なる素直な勧善懲悪モノを地味に手堅く制作しただけだろうが、捻くれた現代社会では古典を新たな解釈で楽しまれ、そこから様々なバリエーションのリメイクが制作されていくのである。

(余談1)原作者のストーカー氏はダブリン出身のアイルランド人。後に世界的著名作家となるオスカー・ワイルド氏と大学時代に親交を深めただけでなく、ワイルドが好意を抱いている女性と結婚をする。ストーカがワイルドと交友をもっていたのも驚きだったが、さらに同じ女性を好きになっていた事や、同性愛者として知られているワイルドが女性に恋愛感情を持っていた事にも驚きだった。
 ドラキュラを辿るとアイルランド文学の楽屋裏色恋沙汰にも結びつく。

 映画「マイケル・コリンズ」や「麦の穂をゆらす風」などで描写されているように、当時のアイルランドは隣国イングランドに併合され、かなり露骨な搾取を受けていた。原作の「主人公」であるドラキュラは人間の生き血を啜る没落貴族なのだが、これは大英帝国の支配階層であるイングランドの王家と貴族を風刺しているように思えるのは勘繰り過ぎだろうか。

 グリフィス監督は「散り行く花」などで有名な映画黎明期の名監督。名優リリアン・ギッシュ氏とは同志的関係。
 トッド・ブラウニング監督はサーカス団のピエロから映画俳優・映画監督へと転身。グリフィスの下でコメディアンとして出演したのち、助監督を経て監督業へ。「魔人ドラキュラ」で世界的名声を掴む。しかしながら、名声は束の間に終わる。
 サーカス団時代の人脈なのか? 現代でいう「身体障害者」たちが出演する「怪物團(フリークス)」を制作、世論のバッシングを浴び映画界から半ば追放状態になった。

 ベラ・ルゴシ氏の晩年は、ジョニー・デップ氏主演「エド・ウッド」で紹介されている。もともとドラキュラを演じるはずだった俳優の急死によってルゴシに役がまわってきた。制作者側は知名度の無い俳優を起用して、観客にミステリアス感を抱かせようという狙いがあった。また、ルゴシは東欧出身で訛りがひどかったたため、ドラキュラ役にはうってつけだった。
 ただ、この東欧訛りは最後まで解消されず、ルゴシの俳優人生にとって足枷になった。

Bela_Lugosi_01.jpg
30代後半に撮影されたベラ・ルゴシの微笑み。
ドラキュラ撮影の10年ほど前。


 ドラキュラの扮装をしていないベラ・ルゴシの写真を見たことがある。普通の背広を着て微笑んでいる30代後半頃の写真なのだが、やはりドラキュラにしか見えない。こんな人が訪問セールスにやってきたらドアの鍵が締まっている事を確認してTVやオーディオを消し、息を潜めるだろう。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆☆ 金字塔

 
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魔人ドラキュラ (1931/アメリカ)

DRACULA 監督: トッド・ブラウニング 出演: ベラ・ルゴシ      ヘレン・チャンドラー     デヴィッド・マナーズ  ドラキュラものでも、ロンドンに移ってからの伯爵とヴァン・ヘルシング教授の戦いがメイン。  吸血鬼映画で、私が一番初めに見たのは忘?...

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