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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」 家族と一緒に考えよう〔19〕

イブラヒムおじさんとコーランの花たち」 
オマー・シャリフ復帰作

 


【原題】MONSIEUR IBRAHIM ET LES FLEURS DU CORAN
【公開年】2003年  【制作国】仏蘭西  【時間】95分  
【監督】フランソワ・デュペイロン
【原作】エリック・=エマニュエル・シュミット
【音楽】
【脚本】フランソワ・デュペイロン エリック・=エマニュエル・シュミット
【言語】フランス語
【出演】オマー・シャリフ(イブラヒムおじさん)  ピエール・ブーランジェ(モモ)  ジルベール・メルキ(モモの父)  イザベル・ルノー(モモの母)  ローラ・ネマルク(ミリアム)  イザベル・アジャーニ(映画スター)
    
【成分】泣ける 楽しい 切ない かわいい トルコ移民 イスラム 下町情緒 1960年代初頭
       
【特徴】パリの下町を舞台に、ムスリムの老人とユダヤ人サラリーマンの子供との温かい交流を描いた佳作。人物構成や展開が「ニューシネマ・パラダイス」に似ている。思春期の主人公と子供との付き合いが苦手な父親とのぎこちない会話がリアル。
 ただ、ハリウッド映画に登場する日本人が漢字の文字盤の腕時計をはめていたり、幕末明治維新が舞台なのに忍者が登場する程度のイスラム無理解が若干見られるらしい。
  
【効能】古き良き時代のパリ下町情緒を楽しめる。性欲を爆発させる思春期の少年に感情移入。
 
【副作用】ややラストの展開がステレオタイプ的で拍子抜け。回教徒を理解していない箇所が見られ不愉快になる。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
パリの下町情緒。
 
 「アラビアのロレンス」「ゲバラ!」「将軍たちの夜」で活躍したアラブ出身の名優オマー・シャリフ氏主演となれば観ない訳にはいかない。しばらく俳優業から遠ざかっていたようだが、この作品は復帰1作目とある。役柄はパリの下町で酒や食料品を売るトルコ移民の年老いた雑貨商だ。

 物語の内容は「ニューシネマ・パラダイス」と似ていて、老人と少年の交流を描いたものだ。酒屋の向いにユダヤ人街があり、そこのアパートに父親と住む少年が時おりお使いにやってくる。オマー・シャリフ氏はその少年の優しい理解者であり少年の人生に大きな影響を与える存在だ。

 物語のインパクトとしては「ニューシネマ・パラダイス」に遠く及ばない。ラストで老人は交通事故で瀕死の重傷を負い少年が最期を看取るわけだが、これは起承転結の転としてありきたりの取って付けたような展開でしかない。いわば手垢が付き過ぎた物語である。どうせならハッピーな老人と少年の姿でいったん区切り、ラストで成人した少年が1人で老人の酒屋を守り、老人は遺影で登場する方がナチュラルだ。無理に起伏をつけるより、凡庸な日常描写に徹するべきだ思う。

 物語は凡庸だが、俳優の演技はリアルであり60年代初頭の下町情緒もよく出て好感がもてる。パリは地理的にも政治的にもアラブ社会との接点があり、舞台となったパリの下町もそんな雰囲気が具体的だ。娼婦たちの中にはアフリカ系もいる。また、舞台となっている通り、少年がセーヌ川を老人と散歩したり、恋人とデートしたり、そんな光景はオランダの写真家エルスケン氏が発表した「巴里時代」そのものだった。(余談1)
 少年役のピエール・ブーランジェ氏は、危うい思春期を好演していた。父親とのぎこちない関係、娼婦への劣情、隣の少女への恋心、老人への甘え、母親への捻くれた意地と反抗心。父親役のジルベール・メルキ氏も地味な役ながら息子との会話が苦手な大人をよく演じていた。(余談2)

 この作品と同様のテーマで邦画でも制作可能だ。私の父母は四国から関西に出てきた時、尼崎の下町に住んだ。映画の舞台となった時代と同じ時期である。近所にはウチナンチュ(沖縄の人)やコリアンが大勢住んでいた。
 関西のとある下町で在日コリアンのオバチャンが営むお好み焼きや焼きソバもつくる駄菓子屋兼雑貨屋を舞台に、この作品のような静かな物語はできないものか。在日コリアンをテーマにした作品の多くは差別・貧困・暴力をセットにする傾向が強すぎる。

 そんな意味も含めて、この作品は凡庸だが気に入っている。
 
(余談1)エド・ファン・デル・エルスケン。第二次大戦が終わって数年後、写真家を志した20代半ばのエルスケンはヒッチハイクでパリにやってきて制作活動を始めた。「巴里時代」は50年代前半のパリの下町を描写している。下町に生きる人々、社会からドロップアウトし人生の展望が見えない若者たち、下町で知り合った友人や創作仲間たちを撮り続けた。
 彼は60年頃に来日し、やはり下町やドヤ街で生きる人々を撮った。たまに有名な俳優やバレーリーナのポートレートなども手掛けるが、彼はそんな写真は好まないようだ。彼の写真の特徴は広角レンズで人物のスナップを撮る。被写体に接近しないと撮れないモノばかりだ。あるていど被写体との信頼関係ができあがっている必要があり、彼の人柄が反映されている。日本取材では黒のトレンチコートを着たヤクザ数人の記念写真まで撮っていた。もちろん、ヤクザたちは威圧することなく笑顔だった。

 ロバート・キャパ氏らが設立したマグナムにも関わりがある。女性の撮り方は日本の篠山紀信氏にも影響を与えている。

(余談2)本ばかり読んでいて少年との会話が少ない。たまに「無駄遣いをするな」「カーテンを閉めろ、本が傷む」などと小言をいう。私もそんな父親になるのだろうか。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆ 良
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
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「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」サウンドトラック
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コメント

こちらにも^^

だいぶ前に見たので細かい部分を忘れてしまっていますが、パリの下町情緒って部分がとても良い映画だったことと、トルコに旅行したりするシーンを覚えています。

>物語のインパクトとしては「ニューシネマ・パラダイス」に遠く及ばない。
 そうなんですよね・・・。私は、少年とおじいさんという組み合わせが大好きなのですが、そこまで感動は無い映画だったかな・・・

Re: こちらにも^^

latifa氏へ
 
 私はむしろ子供との会話が苦手な父親とのぎこちない関係が印象に残っています。

> だいぶ前に見たので細かい部分を忘れてしまっていますが、パリの下町情緒って部分がとても良い映画だったことと、トルコに旅行したりするシーンを覚えています。
 
 あの雑貨屋の雰囲気がとても好きです。資金と商才があったら、古民家を改造して雑貨や缶詰を売る店を始めたいですね。ギャラリーも併設して、パブリックドメインのクラシックな映画を日替わりでビデオ上映して。
 
 父親を失って、母親を拒否して、彼女にフラれて、家にあった金めの物を全て買春に使って、身ひとつになってイブラヒムおじさんの元へ飛び込んで、ゴミゴミとしたパリを抜け出し古代遺跡があるトルコの広い空の下を走る、綺麗な情景ですね。少年が新天地へ向かっていく、そんな雰囲気も好きでした。

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