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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「シン・レッド・ライン」 孤独を楽しむ時に〔2〕 

シン・レッド・ライン
「ライアン二等兵」の影に隠れた名作。

   

 
【原題】The Thin Red Line
【公開年】1998年  【制作国】亜米利加  【時間】171分  
【監督】テレンス・マリック
【原作】 ジェームズ・ジョーンズ
【音楽】ハンス・ジマー
【脚本】 テレンス・マリック
【言語】イングランド語 一部日本語
【出演】ショーン・ペン(ウェルシュ先任曹長)   ジム・カヴィーゼル(ウィット二等兵)  エイドリアン・ブロディ(ファイフニ二等兵)  ベン・チャップリン(ベル二等兵)  ジョン・キューザック(ガフ大尉)  イライアス・コティーズ(スターロス大尉)   ニック・ノルティ(トール中佐)  ジョン・サヴェージ(マックロン曹長)   ジョン・C・ライリー(ストーム曹長)   ジャレッド・レトー(ホワイト中尉)  ウディ・ハレルソン(ケック軍曹)   ジョージ・クルーニー(ボッシュ大尉)   ジョン・トラヴォルタ(クインタード准将)
 
【成分】悲しい スペクタクル パニック 不気味 恐怖 知的 絶望的 切ない ガダルカナル 第二次大戦
 
【特徴】ガダルカナルの激戦を描いた作品。戦争映画に深夜の静けさをイメージするとは意外に思うだろう。派手な戦闘場面が無い訳ではないが、ジム・カヴィーゼル氏の憂いを帯びた脱力的表情が神々しく、随所に南洋の自然を描写する長閑なカメラワークが効いている。
 日本の軍隊とは異なり、アメリカ軍の合理的かつ「ヒューマン」な軍隊模様が垣間見られる。
 
【効能】戦争映画なのに癒される場面がある。ジム・カヴィーゼル氏がイエス・キリストの生まれ変わりのように見える。
 
【副作用】日本軍を木偶のように描いている箇所があり、不快感をもよおすかもしれない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
殺戮と長閑な南国の自然の対比
 
 スピルバーグ監督「プライベート・ライアン」(注1)は大評判だったが、ほぼ同時期に公開されたこの作品はあまり話題にならなかったと思う。しかし、後世に名が残るのはこの作品ではないかと思う。
 
 いずれも第二次世界大戦が背景で激戦地のリアルな戦闘描写が話題になった。「プライベート・ライアン」はヨーロッパが、この作品では太平洋上の熱帯の島が舞台である。
 作風が異なるのは、「ライアン」では主役のトム・ハンクス氏が物語進行の主導権を握る役割を担っているに対して、ここではショーン・ペン氏とジム・カヴィーゼル氏が一応主役ではあるが、基本的に群衆劇である。
 
 主役が作品に占める役割が大きいと、単純な冒険活劇的ヒーロー物になりがちだし観客がそう観てしまう危険がある。興行的にはそのほうがウケが良いかもしれないが、反戦的なメッセージを盛り込むとすれば私は群衆劇の方が戦争映画に適していると思う。
 
 いつも思うがハリウッドの底力は群衆劇で特に発揮される。ガダルカナル島を行軍するアメリカ兵や日本兵の遺体などは従軍記者が撮影した映画や写真の光景をよく再現している。ただ、この作品では主人公たちが戦う相手が日本軍なので、描写に不満を持つ日本人観客は少なくないと思う。私も首を傾げる場面があったが、作品の質に影響するほどではない。(注2)
 
 この作品はオリバー・ストーン監督「プラトーン」(注3)とも比較される事は多い。同じ熱帯ジャングルでの戦いだからである。しかし決定的に違う視点がある。
 「プラトーン」に登場するジャングルは高温多湿で鬱蒼として害虫が多い不快な場所として描かれているのに対し、この作品では「死」を前にして兵士たちの視点から観た映像として南洋の美しい自然が随所に描かれていた。「プラトーン」ではベトナム人の生活臭が殆ど省かれているのに対し、この作品では原住民の一見のどかな営みと主人公たちとの関わりも丁寧に描かれていた。真夜中に鑑賞すると、この情感は強く伝わってくる。
 
 「プラトーン」はアメリカ軍への批判を重点テーマとして作品を組み立て一切の伏線を省いた映画に対し、この「シン・レッド・ライン」はよくこれだけの要素を作品に盛り込んだと思えるほど情感豊かである。数多くある反戦的戦争映画の中でトップクラスに入るデキではないかと思う。個人的に、「ライアン」や「プラトーン」よりも観る価値があるとみた。
 
 人権に関心のある人は、アメリカ軍の雰囲気を参考にすると良いだろう。この映画はアメリカなら多くの人々が非情な軍隊の物語と思う内容である。ところが、日本人が観たら人権意識の強い優しいアメリカ軍に映る。
 何故なら、上官が部下に暴力を振るう場面が無い。せいぜい罵るぐらいだ。作戦期間が満了すれば後続の部隊と交代して戦地を離れ休める。あの悪役中佐も善玉大尉を更迭する際、「使えん奴め!」とは言わず「君は疲れている。休め」と言う。

 これが日本軍であればビンタして殴る蹴る、挙げ句に陸軍刑法に則って命令に背いたと見なされた部下は処罰される。後続はなかなか来ないのでいつも同じ顔触れで戦い疲れ果てる。
 日本軍に比べると本作のアメリカ軍は非常にヒューマンであり、このアメリカ軍をアメリカ人観客には非道に映るのである。この差はぜひおさえてほしい場面だ。そんなアメリカに日本は負けたのだ。
 


(注1)この「プライベート」は、兵卒という意味。だから直訳すればライアン二等兵。私はこの邦題が嫌いである。英語の原題を訳さずにそのままカタカタに書き直しただけだ。例えば「ライアンの命」といった方向の趣旨でタイトルは付けられなかったのか? あるいは「特別指令! ライアン二等兵救出大作戦!」とか。(これは冗談)
 
(注2)私の記憶では、ガダルカナル戦が始まる直前の島には日本海軍陸戦隊と工兵隊が駐留していただけと思う。防備の手薄なガダルカナル島にアメリカ軍が急襲してきて、あっという間に島の守備隊は全滅し飛行場も取られた。大本営は慌てて陸軍部隊を暫時上陸させ歴史上有名な激戦を繰り広げる。ところが映画ではアメリカ軍が上陸して間もない時点で陸軍部隊がいた。最初は海軍陸戦隊かと思ったが階級章は赤地に星マークなので陸軍だった。
 
 それから両軍とも髪の毛が長い。当時の写真や映像ではアメリカ兵は青々と刈り上げ日本兵は坊主頭だ。ところが映画ではアメリカ軍兵士は長めだし、日本兵はスポーツ刈りが伸びた感じだ。この時期はまだ太平洋戦争の前半なので、両軍とも髪を刈る余裕はあったはずだと思うが。
 
(注3)「プラトーン」は、小隊という意味。このタイトルを聞いた当時、ギリシア哲学のプラトンの事かと思った。某小隊の物語だから「プラトーン」だ。なんかマシな邦題は無かったのか? 配給元の怠慢だぞ。
 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作


【受賞】第49回ベルリン国際映画祭 金熊賞 第65回ニューヨーク映画批評家協会賞 監督賞/撮影賞
 
晴雨堂関連作品案内
祈りの島~映画「シン・レッド・ライン」の音楽
プライベート・ライアン [DVD] スティーブン・スピルバーグ
プラトーン 新生アルティメット・エディション [DVD] オリバー・ストーン

晴雨堂の関連書籍案内
シン・レッド・ライン〈上〉 (角川文庫) ジェイムズ ジョーンズ
シン・レッド・ライン〈下〉 (角川文庫) ジェイムズ ジョーンズ
太平洋戦争 日本の敗因〈2〉ガダルカナル 学ばざる軍隊 (角川文庫)
餓島巡礼―ガダルカナルで戦死した夫や父、兄を追って
悲劇の幕開け―ガダルカナル勝者と敗者の研究
大空のサムライ―かえらざる零戦隊
 

 
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