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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

「砂の女」 孤独を楽しみたい時に〔41〕 

砂の女」 岸田今日子の怪演光る。
 


【公開年】1964年  【制作国】日本国  【時間】147分  【監督】勅使河原宏
【原作】安部公房
【音楽】武満徹
【脚本】安部公房
【言語】日本語
【出演】岡田英次(仁木順平)  三井弘次(村の老人)  岸田今日子砂の女)  伊藤弘子(-)  矢野宣(村人)  関口銀三(村人)  市原清彦(村人)
    
【成分】ファンタジー 不思議 セクシー 耽美 白黒映画
       
【特徴】安部公房の名作「砂の女」の実写映画化。本作映画はカンヌ審査員特別賞を受賞しているほか、アカデミー外国語映画賞や監督賞にもノミネートされている。
 1人の中年紳士が昆虫採集中に立ち寄った風変わりな民家には若い女性が1人で住んでいた。彼はその家から出られなくなる。
 白い単調な砂丘の風景と、砂の竪穴に建てられた小さな民家、そして白黒映像がよくマッチしている。
  
【効能】深夜に鑑賞すると夜の静けさを楽しめる。官能的妄想を楽しめる。岸田今日子に精力を吸い取られそうな錯覚に陥る。
 
【副作用】ラストが納得できず釈然としない。
 
下の【続きを読む】をクリックするとネタバレありの詳しいレビューが現れます。記事に直接アクセスした場合は、この行より下がネタばれになりますので注意してください。  
女蟻地獄。
 
 「砂の女」を別の言い方で形容するならば、間違いなく「女蟻地獄」である。原作・脚本は安部公房。彼の作品は高校時代にはまった。(余談1)映画を観たのは大学時代なので原作を先に読んだわけだが、巧く小説を実写化している。映画化をすると原作との違和感や幻滅を感じる事が多々あるのだが、この作品の場合は白黒画像と俳優達の怪演でそのリスクを払拭していた。

 主演の岡田英次氏はイメージと合わなかったが、晩年の暴力団組長役や悪老中役のイメージが強かったので作中の若々しい顔は新鮮だった。ヒロインは若き日の岸田今日子氏、晩年は怪奇女優といった趣きだったが、この当時は比較的美人顔だ。しかし妖艶とも恐怖とも違う奇妙な魅力があった。この時期の岸田今日子氏は官能小説家で知られる谷崎潤一郎原作の「卍」にも出演している。レズビアンを扱った映画だ。(余談2)

 とある砂丘に清潔そうな開襟シャツを着た紳士が昆虫採集にやってくる。そこで奇妙な暮らし方をする若い女性の一軒家があり厄介になるのだが、それが不幸の始まりだった。一軒家は砂丘の一角に掘られた大きな穴の底に立てられていた。一度入ったら、蟻地獄のように出られない。
 男には家族も仕事もあるだろう。しかし着た時はあった梯子が無い。登ろうとすると砂の壁が崩れる。後にはクチが大きいな若い岸田今日子氏が待ち構えている。私はもろに主人公へ感情移入してしまった。逃げ出そうともがくが、砂の女の大きな口に精気を吸い取られるがごとく、激しく子づくりをやってしまう。

 巧いキャスティングだ。もし吉永小百合氏が「砂の女」なら逃げる気はしない。仕事も家庭も棄てて身も心も砂の女に捧げるだろう。世間でいう不細工な女性では、語弊を恐れずに言うと映画的に映えない。大きな口が特徴の岸田今日子氏が砂の女にピッタリである。主人公の男優は、そこそこ男前で育ちが良さそうなキャラなら誰でも良いが、女優はやはり当時なら岸田今日子氏しかいない。
 今の女優に砂の女を演じられる人はいるだろうか? TVや映画で評判の若手女優の殆どは綺麗過ぎて可愛らしくて、逃げたいと思わせる魅力にかける。早々と観念して子づくりに励むだろう。

 下衆な発想なのだが、そもそも砂の女はなぜ砂の穴の底に住むようになったのだろうかと考え、やはり主人公の紳士と同じく普通の女の子だったかもしれないと思い、もともとは女学生かOLで、観光で砂丘を訪れ穴の家に監禁され「砂の男」と住むようになったという設定が思い浮かんだ。
 砂の男が死んでからは1人で砂の家に暮らす。主人公と同じく日常のささやかな現象に興味を持ち楽しんだかもしれない。水が無いので最初は鍋や衣類を洗うのに難儀したが、砂を使って洗うとことのほか巧くいき喜びを感じる、といった生活を砂の女もやっていたのではないかと。

 この作品で、失踪して何年か経過すれば死亡者扱いになる法律を知った。
 
(余談1)当時はシュールリアリズムに傾倒していて、ダリの絵画展が心斎橋大丸百貨店で行われると聞くや泣け無しの銭を叩いて観に行った。
 小説ではフランツ=カフカ・安部公房・フィリップ=K=ディックなどをよく読んでいた。彼らの世界を不条理と呼ばれているが、不条理は単に道理や筋道が通らない状態を意味しているのであって、そんなものは現実社会でも日常茶飯事だ。彼らの作品は不条理以前に絶対にありえない世界をありえるような臨場感に誘う。

 特に安部公房は少年時代の私にとって衝撃だった。当時の私は、売れない漫画家が一室に閉じこもって魔法のGペンで絵を描いたらそれが実体化する物語を考えた。たまたま安部公房の小説を読んだら、「なんや、もうコイツが書いとるやん」。魔法の筆ネタは別に私や安部公房でなくても多くの人が思い付くだろうが、ただ彼の作品はけっこう私が考えた構想に近いモノが多かった。
 幕末明治維新、北海道函館で幕臣による共和国政府を立ち上げた榎本武揚の生き方に魅力を感じ、彼の伝記漫画やシミュレーションウォーゲームを制作していたら、阿部公房は榎本武揚の魅力に迫る小説「榎本武揚」を発表した。
 なんか気が合いそうな小説家だった。
 
(余談2)岸田今日子氏なら女吸血鬼カーミラ役にピッタリだった。次々と女性を同性愛に誘い生き血をすする。そんなホラー向きの女優が育ってほしいところだ。栗山千明氏ならできない事もないが、綺麗過ぎる。やはり彼女は髭面のむさ苦しい男たちをバッタバッタと薙ぎ倒し斬りまくるアクションが素敵だ。
 

 
晴雨堂スタンダード評価
☆☆☆☆ 優
 
晴雨堂マニアック評価
☆☆☆☆ 名作

 
【受賞】カンヌ国際映画祭(審査員特別賞)(1964年)
 
晴雨堂関連作品案内
卍(まんじ) [DVD] 増村保造
  
晴雨堂関連書籍案内
砂の女 (新潮文庫) 安部公房 原作
壁 (新潮文庫) 安部公房
榎本武揚 (中公文庫) 安部公房




 
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