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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

女優評 長澤まさみ 「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS (2008)」 

長澤まさみ 
隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
瞳の演技が印象的。
 

 率直に言って、黒澤明監督作の上原美佐氏よりもはるかに演技は巧い。当然だ、上原美佐氏は素人でヒロインを務めていたが、長澤まさみ氏は既にキャリアがあり高く評価されてきたプロ俳優だ。今回のリメイクは黒澤映画の信奉者たちから酷評の嵐を受けるのは必定だが、前作より優れている点をあげるとすれば、雪姫を演じた俳優のレベルだろう。

 まず、発声が違う。真壁六郎太らを怒鳴りつける上原氏はかなり無理をしたぎこちない声の出し方だったように思うが、長澤氏の場合は怒鳴り慣れている雰囲気が出ていた。これが歳若い白面の端正な顔立ちとのギャップ効果があって良い。実際の長澤氏は清純派女優のイメージが強いどちらかといえばポッチャリとした可愛らしい顔立ちなのだが、作中では精悍さがでていて小気味良かった。男装のボロ着姿での立ち振る舞いも様になっていて、まさに戦国の世に生きる男勝りの勝気なお姫様だ。

 次に素晴らしいのは、目の演技だ。上原氏は眉を吊り上げるアイメイクに頼って鋭さを演出していた(余談1)が、長澤氏はメイク無しでも十分演じられていた。監督らもそれを評価したのか、物語が進展するとともに薄めのメイクがますますスッピン調になっていったように思う。
 前半の闘志に溢れた鋭い眼光、中盤で民の困窮に胸を痛める哀しそうな目、ラストでは山名家の捕虜となり小袖に打ち掛けに着替えさせられスッカリ精彩の無くなった目になるが、山名の侍大将を見る瞳は再び姫武将のような眼光に戻る。

 ただ、私には残念に思う点もある。例えば敵の斥候を馬で追いかけ馬上から矢で射ようとする場面、なかなか迫力があり前作と違って雪姫が仕留めるのかと思ったら、斥候の騎馬武者の哀れな表情に躊躇してしまう。これは止めてほしかった。雪姫の優しさを表現したかったのだろうが、戦国時代の領主の娘は生首を見慣れて(余談2)おり、雪姫のように勝気で武道も手練の設定なら、血を見るのには慣れているはずだ。むしろ敵武者を夢中で討取った後、自分が殺した武者の遺体を見て少し表情を曇らせる方が設定と矛盾しない。
 ラスト近くで松本潤氏扮する武蔵が敵方の武者に殺されそうになったところを助け太刀で一突きして倒すが、ぎこちない刀の持ち方や血が伝って手が赤く染まったことに動揺するのは、キャラ設定からして矛盾している。ありえない。
 つまり、中盤以降は不用意に雪姫の純情さやか弱さを出しすぎているので、私には気に入らなかった。これは監督の指示なのだろうか? それとも長澤氏の勝手な解釈なのだろうか? 

 ラストのオチは予想通りの綺麗な終わり方だったので安堵した。松本潤氏が主役なので、よもや本格的な恋愛感情を持つ事にするのではなかろうかと警戒したが、さすがにそれはしなかった。武蔵への想いは恋愛感情とまではいかず好意に近い信頼関係で終わり、再び気を取り直して君主の道へ進む雪姫、この点に留めたのは正解である。

(余談1)「スタートレック」のバルカン人ミスター・スポックのようだった。

(余談2)取った首を洗って化粧して首実検(誰の首なのか、身分の高い武者の首なのかを確認する)に出すのは女性の役割である。もちろん侍女たちが行うのだが、大将や部将たちの妻も加わることもある。
 ヨーロッパの主婦たちが屠殺した牛や豚をテキパキと解体し内臓を洗う場面を記録映像で見た事があるが、そんな感じに近いのではないか。
 
隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS スペシャル・エディション(3枚組) [DVD] 樋口真嗣
 



 
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[ 2009/10/30 23:00 ] 映画・・女優評 | TB(0) | CM(0)
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