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ミカエル晴雨堂の晴耕雨読な映画処方箋

晴雨堂ミカエルの飄々とした晴耕雨読な映画処方箋。 体調に見合った薬膳料理があるように、 料理に合う葡萄酒があるように、日常の節目に合った映画があります。映画の話題をきっかけに多彩な生活になれば幸いです。詳しいレビューは「続きを読む」をクリックしてください。

女優評 原節子 「わが青春に悔なし (1946)」 

原節子 「わが青春に悔なし
化け方に注目。


 原節子氏というと小津監督の「東京物語」があまりにも有名だが、黒澤映画にも出演している。「わが青春に悔なし」は敗戦直後の1946年に公開されたいわゆる反戦映画だ。

 作品レビューにも書いた通り、前半は戦前の京都大学を舞台に、原節子氏は教授のお嬢さんとして登場する。学生たちのアイドル的存在で白いブラウスが似合う清楚な女性だ。
 中盤、教授の愛弟子で正義感の強い情熱的な男性に恋して事実婚をする。ここでの原節子氏は和服が良く似合う知的で上品な若奥さんだ。特高警察に逮捕され厳しい取調べに髪や着衣が乱れ、まるで廃人のようになる。
 後半部分は「売国奴」のレッテルを貼られた夫の実家で泥だらけになりながら田植えに精を出す姿となる。(余談1)
 そしてラストの戦後では、質素なレディースのリクルートスーツ姿に化粧気の無い素朴で知的な笑顔で、「もうピアノが似合わない指になった」という趣旨の台詞を語る。
 2時間弱の作品の中で、原節子氏は節目節目でスタイルを違和感無く変えているのが素晴らしい。

 ただ、彼女の化け方にはもう一つ意味がある。実は原節子氏は戦前にデビューした女優で、実力よりも人気が先行したアイドルだった。当然、戦前戦中の映画は国策映画であり戦意高揚の内容ばかりだ。そんな映画にヒロインとして出演していた。有名なのは日独合作の「新しき土」だろう。このときのドイツはヒトラー政権である。
 そんな彼女が「わが青春に悔なし」では一転して反戦思想であったために獄死した夫の遺志を継ぎ、上流階級の令嬢から水田で泥まみれになりながら、農村の指導者となっていくのである。この演技は当時高く評価されたのではないかと思う。今観ても、とても演技の基礎が未熟な「アイドル」には思えない。

 言うまでもなく、「わが青春・・」が公開された当時はアメリカ軍を中心とした連合軍に占領されている状態である。戦前・戦中に弾圧されてきた人々にとっては自由な風が吹き込んできた時代であったが、保守右翼にとっては逆にマッカーサー元帥をトップとしたGHQの監視下に置かれていた。だから「わが青春・・」は占領軍が歓迎する内容であり、戦争映画やチャンバラは軍国主義を想起させるとかで禁止された。(余談2)保守右翼にとってこの時代は、アメリカの弾圧を受けた時代であり、「わが青春・・」は占領下の「国策映画」と見なしたであろう。

 原節子氏は軍国主義のアイドルとしてデビューし、戦後は清純派の質素な伝説の女優へと転身する。これは「わが青春・・」の中で良家の令嬢から特高警察の取調べを受け、農村で汗と泥にまみれ、戦争が終わって晴れて清々しい知的な農村指導者となるのに、ダブって見えるのである。

(余談1)リアルなのは、最初はブラウスを着たまま田を耕すのだが、背中が汗で濡れてびっしょりと貼り付いているのだ。日常では当たり前のようだが、映画やドラマではあまり無い演出なのである。だから他の監督のドラマや映画でときおり生活臭の無い「晴着」に見えるのはこのためだ。
 同じ意味で、特高刑事役の志村喬氏の衣装もリアルだ。袖口がダブルカウスになっているワイシャツを着ているのだが、糊がすっかり抜けてシワシワのヨレヨレだ。どういう訳か「スパイ・ゾルゲ」でもいえるが、大抵の映画では糊ばっちりのパリッとした背広姿になる。そんな事はありえない。今なら素材や洗剤が進歩して、いくら洗ってもシワにならないが、当時はメリヤスのシャツが主流でしかも頻繁に糊付けなどできなかったろう。特に刑事などはお洒落に気を配る暇はあまり無かったはずだ。

(余談2)忠義などをテーマにしたサムライ時代劇は禁止された。ただ、岡引の「銭型平次」は許された。


 
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[ 2009/11/06 06:17 ] 映画・・女優評 | TB(0) | CM(0)
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